環境・エネルギーシステム分析研究室
横浜国立大学大学院 本藤祐樹研究室

Top > 修了生の声 > 平山 世志衣

2009年度 博士課程後期 修了生
平山 世志衣

修了生からのメッセージ

平山 世志衣

fig.10 山登りを楽しんでいらっしゃる平山さん

大学院博士課程進学の動機
 私の社会人大学院生生活のスタートは本藤研究室に入る2年前、2002年でした。それまで、子育てをしながら外資系バイオサイエンス企業のマーケティングをしておりましたが、自己啓発のために費やす時間が取れず、そろそろ時代に取り残されないための知識を習得せねばとの思いをしばらく抱えておりました。その頃ちょうど、開設されて1年目の横浜国立大環境情報学府の社会人入学コースの事を知り、旧人類の我々世代には苦手な地球温暖化などといった分野の研究ができるのではないかと期待しで、博士課程前期に入学しました。 前期課程では、LCAをはじめとする環境影響評価法やリスク評価法を学び、環境配慮製品の社会への普及メカニズムをテーマに、一応は修士論文にまとめてみました。 しかしこの間に、次のいわゆる「リサーチクエスチョン」が頭をもたげてしまい、当時の担当教官である松野泰也先生に、いつか博士課程後期に進んでまた研究を続けてみたいと申し上げておりました。 ちょうど修士を終える時に、松野先生がお知り合いの本藤先生が横浜国大の准教授に赴任なさることとなり、院生の3次募集に応募する形で、本藤研究室の1期生に入れていただくことになりました。

研究テーマについて
 元々手がけたかった研究テーマは、一言でいえば「生活の環境影響評価法」でした。人1人の環境影響度を数値化して、人数と掛け合わせれば環境影響の総量を推定できるといったモデルを描いていたのですが、なかなかよい切り口が見いだせず、この先どうやって研究を進めようかと悩んでいた時期もありました。ある日、本藤先生が学生室に現れて、「パソコンを使った環境教育で、やってみてはどうでしょうか」と、ヒントをくださいました。私の中では、このヒントが、大きなブレークスルーとなり、ここからは割と簡単に研究方法案を思い描くことができました。最終的には、環境評価の対象を「学校生活」とし、生徒自らこの評価を行うためのソフトウェア「かばんの中でも温暖化?!」を開発することで、環境影響の「見える化」と人間の意識変化の関係を解析するという手法で研究を進め、まとめることができました。さらに、本藤先生には、この研究を研究室の組織的研究プロジェクトと位置付けていただき、当時の研究室のほとんどの学生がプロジェクトにかかわっていただくこととなり、自分1人ではとても実現できない研究が可能になりました。

職場・家庭との両立
 2002年当時の横浜国大の社会人院生の博士課程前期は必ずしも、簡単に仕事と両立できるものではなかったと思われます。多くの方は、仕事上の研究テーマ(業務)をそのまま大学院の研究の形にするか、定年退職後に研究生活を送っていたと記憶しています。私の場合は、このどちらにもあてははまらず、会社に理解いただき、博士課程前期入学時にいったん退職し、週2,3日程度の出勤の契約社員として仕事を続けていました。いわゆる中間管理職であったため、大幅に組織再編成が必要となり、会社には迷惑をかけてしまいました。さすがに後期課程の2年目あたりには復職せねばならず、この時期から論文を書き上げるまでは、私生活においても引っ越し、義父・実父の終末介護も重なって、なかなか書き進めることができませんでした。社会人の場合、通常研究・執筆に費やす時間が、週末、深夜、早朝となってしまいますが、何時になっても本藤先生にご相談するメールは、リアルタイムでお返事をいただき、こちらもなんとか前進せねばと格闘しておりました。この追い上げやペースメーキングが無ければ5年9か月を費やした論文完成は果たせず、本藤先生には本当に感謝しております。しかし、今思えば、再度終修了を遅らすという選択肢もあったと少々思慮不足を反省しています。子育ての方は、この間にすっかり負担がなくなり、むしろ頼りになる家族となってくれたことは予想外でした。

修了後
 修了後も、研究を業績として元の職場に生かすというのが、一般的であろうと思いますが、私の場合は勤務先の仕事に生かす方法もないため、修了後2年ほどかけてNPO法人を作り、研究の過程で開発した環境教育用のコンテンツの普及活動をしています。この間にも、本藤研には研究員として籍を置かせていただき、さらにLCIの手法を研究させていただきました。現在は、日本LCA学会の部会である環境教育研究会で、環境教育教材の普及活動や開発にも参加させていただいいております。仕事の方は、復帰したものの再度退職し、現在は研究員向けの人材紹介会社を通して、複数の環境コンサルタント企業と契約しLCI、PM2.5排出削減費用対効果解析といった仕事をさせていただいています。

最後に
 本藤研究室における研究生活を改めて振り返ってみましたが、これから入学を考えておられる方の参考にならないことばかりが思い出になっているようです。しかし、研究生活そのものは相当に面白い事であり、このようなことに時間を費やすことができたことそのものが、大きな喜びではありました。事前に綿密な研究計画とライフプランを立てておかない限り、効率よく研究を進める対策はないと思った方がよいと思われます。ただ、万一うまくいかなくても(社会人にはありがちですが)、至極贅沢な経験ととらえていただければと思います。


-2014年5月29日 掲載-