研究概要
ABOUT
本研究を進める背景と目的は?
望ましい脱炭素社会を構築するためには、脱炭素技術の導入が、望ましさの源泉となる社会経済的価値を創造するものでなければありません。しかし、社会経済的価値にはトレードオフが存在するため、脱炭素社会へ移行する道筋を検討する際には、異なる価値のバランスに目を向けることが必要です。さらに、脱炭素技術の社会実装の実現性を高めるためには、「どの」脱炭素技術が「いつ」「どのくらい」に加えて、「どこに」導入されるかを明らかにする必要があります。
本研究では、脱炭素社会において鍵を握る地域の再生可能エネルギーに焦点をあて、エネルギーシステムの費用効率的な脱炭素を目指すとともに、公平な便益の配分に関わる地域経済や産業・雇用構造への影響も踏まえ、再生可能エネルギー基盤社会に向けた道筋を明らかにし、トランジション・マネジメントの戦略・政策の立案に資する情報を提供することを目的としています。
どのような問題に取り組むのか?
再エネ基盤社会の構築に向けて、脱炭素エネルギーシステムを低コストに構築することも重要ですが、国・地域の経済活性化に重きをおいて再エネ導入を促進することも重要です。エネルギーコストの削減と、国や地域にもたらされるベネフィットの増大は、表裏一体の関係にあります。エネルギーの安価な供給の重視は、産業や雇用の海外流出につながる可能性があり、本研究で焦点をあてている地方部へのベネフィットの配分も十分になされない可能性があります。これらの価値の間にどのようなトレードオフの関係があり、どこまで技術で解決できるのか、如何なる政策が求められるのか、を明らかにしたいと考えています。
どのような方法で研究を進めるのか?
上述の問題を解くために、本研究では、「エネルギーコストと地域ベネフィットに関わる価値のトレードオフ(バランス)を考慮した再エネ基盤社会への潜在的な道筋を提示する」という研究目標を設定しています。その研究目標に到達するために、図に示しますように、(1)最適化型エネルギーシステムモデルと(2)産業連関シミュレーションモデルのソフトリンクに基づく(3)定量的シナリオ分析を通して、(4)再エネ基盤社会への道筋を提示したいと考えています。
- (1) エネルギーシステムモデル分析
- 地域レベルにおける様々な再エネ技術の特徴を表現した、高い時間・地域解像度を持つコスト最小化エネルギーシステムモデルを開発します。このモデルを用いて、日本全国および地域レベルの将来エネルギーシステムの姿を定量的に分析することが可能です。
- (2) 産業連関モデル分析
- 基礎自治体レベルで詳細な産業部門を描写した産業連関シミュレーションモデルを開発します。このモデルを用いて、エネルギー技術導入に国と地域における産業や雇用の構造変化、付加価値や雇用の増減などについて定量的に分析することが可能です。
- (3) 定量的シナリオ分析
- エネルギーシステムモデルと産業連関モデルを整合的につなぎあわせて、将来の異なるシナリオに基づき、エネルギーシステムがどのように移行していくのか、また、地域の再エネ資源利用や産業・雇用構造がどのように変化していくのか、将来社会の姿を定量的に示していく予定です。
- (4) 再エネ基盤社会への道筋検討
- 定量的なシナリオ分析の結果に基づき、地域における技術受容性や制度や法律の障壁なども考慮して道筋を明らかにし、労働力や地域産業の公正かつ円滑な移行を支援するトランジション・マネジメントについて検討する予定です。
